マジックの世界には、時々「どうしてこんな事を思いつくの?」という頭脳を持った人が現れます。佐藤総さんの名前が世に出るのはこのレクチャーノートが初めてですが、彼は間違いなく、深い造詣を持ち独特の発想と思索を行えるそういった人たちの一人です。ディーラーである我々がこういう事を言ってもあまり信用されないと思いますので、巻頭に収録されている二川滋夫先生の推薦文を引用させて頂きます。
「2003年の4月のことです。近年は、なかなかおもしろいマジックにもお目にかからないなあ、と思っていました。そんなところに、一巻のビデオが大阪のフレンチドロップから届きました。ビデオの演技者は、佐藤総さんという若い人でした。早速その演技を見ました。特別に変わった事をする訳でもないなあ、と思ってみていました。怪しいこともなく、演技は静かに淡々と進んでいきました。そして、手順が後半になってきたときに、このままで不思議な現象が起きたらどうしよう!と思っていました。ところが、実際にその現象が起こったのです。4つのトリックとも、素晴らしいものでした。すっかり綺麗に騙されて、久しぶりに、エレベーターでスッと落下するような快感を味わいました。
参りました。もう、いろんなアイディアも出尽くしたかに見えるカード・マジックの世界にも、まだまだ、開発の余地があることを知らされました。そして、時々、この様にすっきりと騙してくれる新人が現れるので、マジックはやめられないのでしょう。私は、佐藤さんのトリックの秘密を早く知りたいと思い、そしてまた、その根底にある考え方を探ってみたい一人です。この佐藤さんのレクチャーノートは、きっと大きな刺激をマジック界に与えてくれる事でしょう。楽しみです」
収録内容
- Bushfire Triumph
- マジシャン相手に「これからトライアンフをやります」と宣言しても、十分引っかけられる恐るべきマジックです。観客にカードを引いてもらって返してもらったあとでデックの表と裏をばらばらに混ぜるのですが、これが本当にぐちゃぐちゃに混ぜているようにしか見えません。マジシャンが見てもこの向きを揃えるのは不可能だと思いますが、見事にすべての向きは揃って、観客のカードだけが表を向いています。
- Warp Wrap
- 観客にカードを引いてもらい、それを一組の中に戻してもらいます。そこからマジシャンが怪しいテクニック等を使えないように、全体を輪ゴムで止めます。上も下も見せ、本当に輪ゴムが掛かっていることを確認してもらいます。その状況で、中程に入れたはずのカードが輪ゴムを通り抜けて、下に飛び出します。次にその観客のカードを輪ゴムがかかったままのデックに打ち付けると、一瞬にして消失し、再びデックの中程に表向きに現れます。そして観客のカードを抜き出して演者の両手に挟むと、消失します。テーブルの上のデックを広げると、観客のカードが中程に、表向きに入っています。
上記の2作品だけでも3000円では安いと思える程の原理と方法ですが、それに加えてさらに知恵と賢さを感じさせる12作品が解説されています。
- Cross Assembler
- 4箇所に置いたキングが、その位置を入れ替えた直後に一瞬で一カ所に集まります。
- Motemonte
- 4つに分けたパケットのトップが、観客の選んだものだけクイーンで他はキングになっています。
- So-lusion
- レギュラーデックで手軽にできるエニーカード・アット・エニー・ナンバー。
- So-lution #2
- 上記マジックの別バージョンです。
- Love a Dove Dove
- ラヴ・ア・ダブダブ・バニッシュを使った小品トリック。玉砕スタッキングデックを観客に混ぜさせても、セットアップしたスタックを生き残らせる方法。
- Poker Demon-Stration
- 玉砕スタッキングを応用したポーカー・デモンストレーションです。
- Poker Demon-Stration #2
- 上記を二段の手順にしたもの。
- Quartet Shuffle
- 観客にシャッフルさせて順番にカードを捨ててゆくと、最後に同じ数字の4枚が残ります。
- Destroy and Search
- 玉砕スタッキングをカード・ロケーションに応用した作品です。
- Kyoto "Okiniiri" Prediction
- お客さんの引いた絵はがきが予言されています。
- Ying-Yang Divideh
- 観客が自由に選んだ6枚のカードの合計が予言されています。
14種類のマジックの解説だけではなく、そこに至るまでの発想と思考の過程も丁寧に書かれており、その部分だけでも読む価値があります。全82ページ。